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第220回 直腸カルチノイド

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この夏、直腸にカルチノイドが見つかった。

あの日は、がん検診として大腸内視鏡検査を受けていた。「大丈夫ですね。あとは抜いていきますからね」と先生。検査はそろそろ終わろうとしていた時だった。カメラは、赤く入り組んだ迷宮のような私の腸内を引き抜かれていく。私は検査が終わることに安堵しながら、モニターを見つめていた。とそこに、ポッコリと盛り上がる塊が見えた。「ん?」と先生のカメラが止まる。カメラを戻し、様々な角度からその艶やかな塊を映し出す。あとで聞けば、サイズは5mmくらいの小さな腫瘤だという。表面は平滑で顔つきは穏やかそのものであった。自覚症状は全くなく、当然何もないはずのつもりで検査を受けていた私は、大いにショックを受けた。41歳にして、低悪性度とはいえ腫瘍が見つかったことに内心かなり狼狽したのである。2年前にも検査を受けた時にはなかったものだ。病理検査の結果、腫瘍はカルチノイドと判明し、検査をしてくださった先生からは手術を勧められた。

自分でもいくつか文献を集めて読んでみた。それらによると、カルチノイドは比較的低悪性度の神経内分泌腫瘍である。発生する臓器によって悪性度が異なる。日本を含むアジア諸国においては直腸カルチノイドが多い。直腸カルチノイドは発症年齢が低く、男性に多いと報告されている。治療の原則は腫瘍の完全切除であり、転移の有無が治療方針に大きく関係する。ということだ。文献に掲載されている手術例の写真は、腫瘍は大きくて潰瘍ができており、かなり悪い顔つきをしていた。私のは、まだまだかわいいものである。今回の私の場合は腫瘍径が小さいため、内視鏡的切除の適応である。こうして、私は人生で初めて手術を受けることになった。

手術といっても内視鏡手術で、当日の朝も普通にご飯を食べ、排便もして病院に向かった。事前に便が出ていたので、浣腸もなしにそのまま手術を受ける運びとなる。麻酔はどうするのかと思っていたが、なんと麻酔はしないとのこと。実際、直腸の粘膜を切っても痛くないのは不思議だった。台に横臥し膝を抱えるように曲げる。手術の一部始終を画面を見ながら受けるので、とてもよくわかった。お尻から内視鏡が入る。腫瘍周辺の粘膜下に生理食塩水だろうか、液を注射すると、一気にプゥーッと膨隆した。2回ほど注射をした後、リングを腫瘍にかける。うまいもので、リングをかけられた途端、それまで大きく盛り上がっていた我がカルチノイドは、首を絞められたように小さくしぼんでしまった。そこに電極のワイヤーのようなものをかけ、そのリングの下を電気的に焼灼すると、あっという間に腫瘍は切除せしめられた。腫瘍の切除された痕は焼けて禿げたようになっている。ここをつまむようにクリップのようなものをいくつもかけていく。上手いものだと感心してみている。痛みはほとんどない。時間にして20分ほどだろうか。思っていたよりも早く、手術は終了した。

そのあとは安静にしているとやがてお腹が動き出した。優しい看護師さんがバナナとプリンを持ってきてくれたのでありがたくいただく。こんな時は優しさが身にしみる。お昼も消化のいいものなら食べてもよいということで、近くの店でパスタを食べた。術後は入院して様子をみるということになっており、それから一日病室でおとなしく過ごした。驚いたことに部屋は広い個室で、バストイレ付きであった。オスカー・ピーターソンの明快なピアノジャズを聴いたり、持っていった『大いなる眠り』を読んだり、映画『サンダーボール作戦』を観て、ひとり過ごす。ゆっくりしたが、やはりというか、夜はなかなか寝られなかった。病院の夕食と翌朝の朝食は、お粥であった。先生から、くれぐれもお酒はしばらく控えるよう言われた(血流がよくなって切除した痕から出血することがあるそうだ)ので、退院後もしばらくお酒はがまんした。出血も痛みもなく体調はいいようで、筋トレやランニングも再開している。

自分も癌になった。これは大きな発見だった。今回はたまたま検診を受けて見つかったものだから、まだ腫瘍も小さいうちに、内視鏡手術で1泊入院で済んだから、運がよかったんだろう。そう思う。これからもこまめに検診を受けていくことにしようと改めて思うのである。



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by takeuchi-cl | 2017-09-18 09:00
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